2020 Dec. 2

第10回“光”機到来!Qコロキウム

盛会のうちに幕を閉じました。ご参加ありがとうございました!


発表1:

矢後 友暁(埼玉大・助教)
シングレットフィッションの磁場効果測定
磁場効果測定から何がわかるのか?


シングレットフィッションとは、有機材料中などで生成した励起一重項が二つの励起三重項に分裂する過程である。シングレットフィッション過程の存在は、1960年代に有機結晶の蛍光強度に対する磁場効果の観測により実証された。その後、フィッションの研究は下火になったが、2000年代に有機デバイスの高効率化にフィッションが利用できるのではというアイデアが提唱されて以降、再び研究が活発化している。我々は有機結晶の蛍光強度の磁場依存性を観測し、シングレットフィッションの機構解明に取り組んできた。本講演では、磁場効果の原理と最近得られた研究成果について紹介する。

発表2:

小堀 康博(神戸大・教授)
電子スピンの量子・動的効果で読み解く光エネルギー変換のしくみ


光合成や太陽電池などの光エネルギー変換システムでは、光が励起子や電荷を中間体として瞬時に生みだし、必要不可欠なエネルギー源となる。これら変換過程の根源的なしくみは、植物光合成や有機太陽電池などの複雑で不均一な組織・膜中における光反応初期過程を明らかにすることで理解され、将来に期待されている光を有効利用する超高効率デバイス開発への具体的な指針を提示することができる。コロキウムでは、時間分解電子スピン共鳴法による光電荷分離および一重項励起子分裂の初期過程で生成するスピンの量子・動的効果の解析によって明らかになった中間体精密構造と、それにより示されたエネルギー変換機構の一部を紹介する。

Youtube チャットコメント一覧:

講演1:矢後 友暁(埼玉大・助教)

*チャットコメントに対する先生方からの返答を黄色で追記しました。
質問①
Kiyoshi Miyata
蛍光強度をプロットしていますが、これはprompt蛍光と遅延蛍光の和という認識で良いでしょうか? だとすると、遅延蛍光だけで見ると6%以上の変化があるということであってますか?
  • 回答①
    時間分解測定ではなく定常状態の測定なので、promptと遅延蛍光の和という認識であっていると思います。遅延蛍光だけで見れれば、6 %以上の変化があると思います。


質問②

Yasuhiro Kobori

TTAが起こった様子から磁場効果によりSFが証明できると言うことですが、TT対が基底状態に失活する様子から磁場効果がすみません。TTAが起こった様子から磁場効果によりSFが証明できると言うことですが、TT対が基底状態に失活する様子から磁場効果がみえませんか?
  • 回答②
    基底状態にもどる再結合過程があれば、三重項の収量に磁場効果が観測できると思います。ただし、今回の試料は、厚みのある結晶なので過渡吸収測定で三重項の収量を評価するのは難しいと思います。また、シングレットフィッションの効率のよい系では、三重項の収量が大きくなるので磁場効果自体は見えにくくなります。


質問③

Kiminori Maeda
磁場効果を起こす遅延蛍光は殆どGeminateのものですか?時間分解測定で分けられないですか?
  • 回答③ 
    Geminateしか考えていない計算で、ある程度実験結果が再現できているのでほとんどGeminateだと思います。

コメント❶

Kiminori Maeda
准教授です.(笑)

質問④

Kiyoshi Miyata
1.5J, 2Jでdipが出ないのは、QとTはカップリングがない方という理解でよろしいでしょうか?
  • 回答④ 
    その影響が大きいと思います。また、QとTの占有数が低いのも原因の一つだと思います。

質問⑤

Yasuhiro Kobori
S-Tキャップが2J、S-Qギャップが6J、というのが厳密に正しいと、測定から証明されたのでしょうか?
  • 回答⑤
    これまでdipが観測されたものについては、磁場効果測定のdipの位置と、S-Tキャップが2J、S-Qギャップが6J、と考えた時のdipの位置が一致しているので、この関係性が正しいと思います。ただし、2J、6Jとならない場合もあると思います。

質問⑥

Kiminori Maeda
Dipの異方性を決めているのは分子間のDipole-Dipoleですか?トリプレットのゼロ磁場分裂ですか?
  • 回答⑥
    今回の解析においては、分子間の相互作用は交換相互作用のみを考えています。Dipの異方性は、三重項のゼロ磁場分裂定数で決まっています。

質問⑦
Kiyoshi Miyata

T1+T1→TnのTTAが起きるとT1のポピュレーションも変調されそうな気がしますが、例えば過渡吸収測定でT1の減衰を見ればペンタセンなどでも磁場依存性は見られる可能性がありますか?
  • 回答⑦ 
    ご指摘のとおりT1のポピュレーションに磁場依存性は現れると思います。ただし、ペンタセンで三重項に対する大きな磁場効果を観測するのは難しいのではないかと考えています。これは、フィッションが効率よく起こる材料においては、励起三重項の収率が高いためです。フィッションの効率が良好で、遅延蛍光の量子収率が1%のケースを考えます。このときに、遅延蛍光の強度が2倍に増えるという磁場効果を測定できたとします。これは、蛍光を観測している限りでは大きな磁場効果と考えられます。しかし、励起三重項の収率から見ると、磁場の効果でその収率が99%から98%に変わっただけです。磁場の効果は見かけ上、小さくなってしまいます。

質問⑧

Yoichi Sasaki
三重項対が相関しうる距離(何分子分)も蛍光強度の磁場依存性解析により見積もれるのでしょうか?
  • 回答⑧
    定常状態の測定だけでは難しいと思います。蛍光の減衰を解析することによって、どれぐらい遅延蛍光の成分があるかわかれば、ある程度見積もることはできるかもしれません。

質問⑨

Hajime Nakanotani
Rubreneの場合はTripletの拡散が速いからDipが見えないということでしたでしょうか?
  • 回答⑨
    その理由が大きいと思います。スピンの状態が変わる前に三重項対が解離してしまうためと考えています。また、交換相互作用が大きすぎて見えていない可能性もあります、

コメント❷

Yasuhiro Kobori
ルブレン3重項が解離するかどうかは時間分解EPR測定で分かるかもしれません。

コメント❸

Kiminori Maeda
解離しない場合,低い磁場領域に異常が出るのでは?

講演2:小堀 康博(神戸大・教授)

​質問①
Kiyoshi Miyata
電子分布がある程度非局在化している場合、スピン間の距離というのはどのように捉えるのが間違いがないでしょうか?(e.g. 重心の距離?)

  • 今回、スピン間の双極子間相互亜用からの距離はあまり明示しておりませんでしたが、分子間の双極子間相互作用パラメータ(d_SS 値)から、正確に中心間距離を出すのであれば、各炭素原子間の距離による双極子間相互作用をスピン密度に対して平均化する解析処理が必要になります。ただし、重心間距離を出すのであれば、各分子のスピン密度分布を仮定する必要があります。

  •  PSIIの光電荷分離で判明したd_SS値から、各スピンを点双極子と仮定した場合の距離は1.5 nmでした。これはX線構造解析のデータから推測されるPD1ーChlA中心間距離とほぼ一致しており、ここから、各電荷は分子内で局在化している傾向にあるとは思います。ただそれでも電子雲の広がりがあるはずですので、正と負の電荷同士が引っ張られて少し近づいている傾向にあるのかもしれません。今回の発表では、分子配向効果による異方性に注目した映像化を行っている観点からすると、スピン間の配向が、画像で示されたような範囲での正確性を持っていることは言えるかと思っています。

質問②
​Kiyoshi Miyata
精緻な構造解析に感動しました! スライド24でビフェニルの方がS0へ行く無輻射失活が少ないのはどのように説明されるとイメージすれば良いでしょうか?

  • ありがとうございます。10.1021/acs.jpcb.0c07984で報告した内容にあるように、平面性が高くπ共役が広がる強相関TT対から、90°の二面角をもつようなT+Tに解離している結果が得られております。このことからするとそういう構造変化に対する立体障害が、励起状態において低い方が、T+T解離には有利であると考えられます。励起状態のMO計算でこのような解析が、今後出てくることを期待しています。

コメント❶
​Yasunori Matsui
5TTとSCTPで構造が大きく違うということがたいへんよくわかり,個人的にはかなり示唆的でよくわかりました.

  • T+T解離による構造変化を実験的に実証した研究は、我々の結果10.1021/acs.jpcb.0c07984が世界初と思っております。今後、この構造変化機構の詳細をさらに明らかにしたいと考えています。

質問③
​Yosuke Tani
基礎的すぎて恐縮なのですが、連結型ではない分子の希薄溶液でネックになるのはトリプレットペアになるところだけではなくそのあとも難しい過程があるのでしょうか?

  • 希薄溶液中での分子間SF過程については、報告例が少ないと思います。ただ、分子間エキシプレックスを経由したTT対生成が報告されているかと思います。このような場合の後続過程についての詳細な研究はなされていないように思います。元来、希薄溶液で生成するラジカル対に関しては、S-T0コヒーレンスの生成とその解離によるスピン分極の生成が明らかになっており、ラジカル対機構(RPM)として認知されています。

  • 今回、結晶性薄膜で、これに似たT+T解離によるS-Q0コヒーレンスの伝搬(これを、量子テレポーテーション効果とよんでいます。)が観測された研究(10.1039/C9SC04949E)を一部紹介させて頂きました。

質問④
Kiminori Maeda
Jに対するモノフェニル,ビフェニルの効果を議論する場合,スルーボンドを考慮する必要がありましたか?ブリッジ上の1中心の相互作用は重要そうですか?

  • はい、おっしゃる通りだと考えています。これについての内容も、現在投稿中です。

質問⑤
Yoichi Sasaki
回転運動を可能にするBridgeの導入で①Quintetの効率的な生成と②再結合の抑制を同時達成することは可能ということでしょうか?

  • ゆらぎによるスピン緩和があると、Quintetになりやすいという性質があるものの、1TT状態が再結合で失活すれば、5TT→1TT→S0として緩和しロスすることになるため、5重項の生成は、必ずしも再結合の抑制にはならないと考えています。ただ、90°回転までさせることができれば軌道の重なりがなくなるため、再結合を有効に抑制させられます。そのような分子設計ができれば有効だと考えます。

質問⑥
​Kiminori Maeda
Singlet TTのエンタングルメント(コヒーレンス)を壊す相互作用の揺らぎは何ですか?

  • これは、大変難しい質問ですが、この系はコヒーレンスの発展がゼロ磁場分裂相互作用Dで決まっているため、ピコ秒領域で発展しております。蛍光測定による磁場効果の観測ではそういったコヒーレンスが観測されていることからすると、特に結晶性膜でのT+T状態でのデコヒーレンスが起きていない可能性もあります。しかし、Singlet TTが超高速で解離してしまうとコヒーレンスが発展していても、ナノ秒領域での観測を行うと有効な横方向磁化とはなっていません。

  • 今回のナノ秒時間分解計測では、T+T状態の信号の立ち上がりが少し遅い(10.1039/C9SC04949E)ため、溶液中のラジカル対機構(RPM)の信号のようになっているとすれば、T2でデコヒーレンスしたものを観測しているように思っています。そういう意味では、結晶性薄膜でのT+T解離に伴う拡散によるDのわずかな揺らぎが原因になっているのかもしれません。またRPMの関連でいうと、三重項励起子の拡散解離に伴ってgeminate対のJを感じたり感じなかったりしながら横方向磁化をため込んで、ようやくT+T状態として観測されている可能性もあると思っています。

  • 連結系T+Tにおいては、解離速度自身がおそくコヒーレンスは既に壊されてしまったままSCTPになっていると思っています。

質問⑦
Kiyoshi Miyata
TR-ESR測定が測定可能であるための試料の条件はどのような感触でしょうか?

  • 五重項生成収量が数パーセント程度でも観測ができていることから、スピン分極異方性効果によって感度の高い測定が可能になっていると考えられます。